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東京地方裁判所 平成4年(特わ)351号 判決 1993年1月29日

本籍

東京都練馬区高野台五丁目二一四四番地

住居

同都板橋区常盤台二丁目一一番二一号

医師

横山博美

昭和二四年一月三一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官蝦名俊晴、弁護人石井元、同近藤卓史各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年四月及び罰金一億円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都板橋区大山東町五六番六号メゾーネ大山において、「大山中央クリニック」の名称で泌尿器科、形成外科等を扱う診療所を開設して医業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、自由診療収入の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六三年分の実際総所得金額が二億二四八三万七二五〇円(別紙1の所得金額総括表及び別紙2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成元年三月一五日、同区大山東町三五番一号所轄板橋税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が五二八五万四〇三五円で、これに対する所得税額が八四八万二七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成四年押第五九五号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億一一二一万五一〇〇円と右申告税額との差額一億〇二七三万二四〇〇円(別紙3の脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成元年分の実際総所得金額が八億三三四八万八九六三円(別紙4の所得金額総括表及び別紙5の修正損益計算書参照)で、分離課税による短期譲渡所得金額が三一万二六二八円であったにもかかわらず、同二年三月一五日、前記板橋税務署において、同税務署長に対し、同元年分の総所得金額が七六八五万一三六五円で、分譲課税による短期譲渡所得金額が三一万二六二八円であり、これに対する所得税額が二二七一万二〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額四億〇〇九六万四〇〇〇円と右申告税額との差額三億七八二五万二〇〇〇円(別紙6の脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の検察官に対する供述調書(九通)

一  中島義雄(四通)及び前洋子の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の自費診療収入調査書、給料調査書、福利厚生費調査書、旅費交通費調査書、支払利息調査書(事業所得分、検甲六)、減価償却費調査書、青色申告控除額調査書、借入金利子調査書、受取利息調査書(利子所得分、検甲一八)、支払利息調査書(不動産所得分、検甲二一)、損益通算の対象とならない金額調査書及び領置てん末書

一  検察事務官作成の源泉徴収税額の金額についての捜査報告書及び勘定科目の表記についての捜査報告書

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の薬品費調査書、診療材料費調査書、給食材料費調査書、委託費調査書、消耗品費調査書、リース料調査書、広告宣伝費調査書及び給付補てん金調査書

一  検察事務官作成の所得控除の金額についての捜査報告書及び六三年分決算書の誤記についての捜査報告書

一  押収してある昭和六三年分の確定申告書(一般用)一袋(平成四年押第五九五号の1)及び所得税青色申告決算書(昭和六三年分)一袋(同押号の3)

判示第二の事実について

一  飯塚一成の検察事務官に対する供述調書(不同意部分を除く)

一  大蔵事務官作成の貸倒引当金繰入額調査書、会費調査書及び受取利息調査書(雑所得分、検甲二〇)

一  検察事務官作成の自費診療収入の金額についての捜査報告書及び電話聴取書

一  押収してある平成元年分の確定申告書(分離課税用)一袋(同押号の2)及び所得税青色申告決算書(平成元年分)一袋(同押号の4)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも各所定の懲役刑と罰金刑とを併科するとともに各罪につき情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪について定めた罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年四月及び罰金一億円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により、金五〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

(量刑の理由)

本件は、大山中央クリニックの名称で診療所を営む医師である被告人が、昭和六三年から平成元年にかけて包茎手術等により多額の自由診療収入を得たにもかかわらず、それら自由診療収入の一部を除外するなどして、所得税を脱税したという事案である。本件の脱税額は、二年分の合計で四億八〇〇〇万円余りに上り、ほ脱率も二期通算で約九四パーセントと高率である。脱税の態様は、雑誌等の広告により多数の患者を集めて行った包茎手術が自由診療であることから、その手術代の一部を除外したというものであり、被告人自ら経理担当者に指示して、まず、発覚しにくい現金一括払い分を除外し、さらに分割払いの分も除外した上、金庫や仮名・借名口座を含む数口の預金口座に分散隠匿し、カルテも被告人所有のマンションに隠匿していたのであり、計画的で大胆かつ悪質な犯行ということができる。犯行の動機を見ると、診療所の元のオーナーから出資金の返済を迫られたり、昭和六三年初めに診療所に一時的な資金不足が生じて被告人自身若干の手元金を備えておく必要を感じていたといった事情が窺える反面、提携診療所の開設の状況や、被告人を実質経営者とする医療関係会社の設立の状況、被告人自身の新診療所の開設の状況等をみると、被告人の事業欲が脱税の動機の大きな部分を占めているのは否定しがたく、本件犯行の動機に酌量の余地は乏しい。このように、本件犯行は、その脱税額、ほ脱率、犯行態様・動機等からして、悪質な事案であり、医師としての社会的地位と信用を有する被告人が自ら積極的に本件を敢行していたということは、大きな社会的非難を免れないものである。

一方、ほ脱された本件二年分の本税については既に完納され、重加算税等についても所有の不動産の処分により相当部分が納付済みであり、被告人も現在、自宅を売りに出すなどして残額の納付に努力していること、被告人は、大山中央クリニックで夜間の腎透析を他に先駆けて実施するなど、腎透析患者の治療・援護に尽力しており、その医師としての活動については治療面・社会奉仕面で評価すべき点が少なくないこと、被告人は、前科前歴もなく、犯行を素直に認めて本件を真摯に反省悔悟していると認められるうえ、本件で逮捕・勾留され、その他本件の発覚により、既にある程度の社会的制裁を受けていること、新診療所に関しては、医療法人化を目指して再発防止策が進められていること、その他家族の状況等被告人に有利な諸事情を十分斟酌し、被告人を実刑に処した場合に蒙るであろう様々な不利益を考慮に入れても、先に述べた刑事責任の重大さからすると、被告人は主文の実刑を免れないと判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑、懲役二年及び罰金一億三〇〇〇万円)

(裁判長裁判官 伊藤正髙 裁判官 朝山芳史 裁判官 山口信恭)

別紙1 所得金額総括表

<省略>

別紙2 所得金額総括表

<省略>

<省略>

別紙3 脱税額計算書

<省略>

別紙4 所得金額総括表

<省略>

別紙5 修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙6 脱税額計算書

<省略>

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